メンフィスにて:雑記帳

日々感じたこと、読書ノートなど個人的なメモ書きのようなものです。

ミルウォーキー美術館を訪ねて

Milwaukee Art Museum on Lake Michigan, a beautiful building designed by Santiago Calatrava. The building images a ship about to set sail into the lake. Every time in my first visit to a museum, I discover my new artist whose works impress me. This time, my discovery was William Glackens, an American painter.
カラトラーヴァの手になる美しいミルウォーキー美術館。ミシガン湖に出帆しようとする船のイメージ。今回の発見はアメリカ人画家、ウイリアム・グラッケンス。12/30/23.
 
 以上は私が他の場所に書いたもの。ミルウォーキー美術館を訪ねたときの印象を短く表現したものだ。
 ミルウォーキーウィスコンシン州最大の都市、都市圏の人口は約160万人、シカゴからは北に約1時間半のドライブで着く。シカゴと同じくミシガン湖に面しており20世紀には工業都市として栄えた。有名な産業はビールである。他のラストベルトの街と同じく、荒廃著しく一時期は全米で最悪の治安状態であった。しかし近年は少し改善されたということになっている。もっとも米国のどの都市も地区によって治安状態は全然違う。ウィスコンシン州の人口構成は北ヨーロッパ出身者が約4分の3を占め、特にドイツ系が多い。ミルウォーキーも同様で、食事や文化にドイツの影響が強く見られる。
 どちらかといえば、荒廃した印象の強いミルウォーキーだが、ミシガン湖岸に作られたミルウォーキー美術館は一際目立つデザインで知られる。この建物はスペイン人建築家サンティアゴ・カラトラーヴァ(Santiago Calatrava)によって設計されたもので、2001年に完成した。すぐにわかるように外観は帆船のイメージで、今にもミシガン湖に出帆しようとしているかのように思える。収蔵物はなかなか充実していて、ヨーロッパ美術、近現代アメリカ美術はもちろん、民族美術、あるいはカリブ海の美術など、個性的なコレクションである。ヨーロッパ美術を網羅的に揃え、教科書に載るような作品を収蔵している大美術館も米国の大都市には存在する。しかしそれ以外の中小都市の美術館では個性的なコレクションを揃えることは大事だと思う。
 初めて訪れる美術館では私自身が初めて実物を体験するアーティストを発見するのが常である。今回はアメリカ人画家、ウィリアム・グラッケンス(William Glackens, 1870-1938)の絵画に惹きつけられた。グラッケンスはフィラデルフィア出身、1895年に渡欧し短期間ながらオランダ、次いでパリで修行し、以後主にニューヨークで活動していたようである。パリ滞在当時の当地での美術史的な時期は、ポスト印象派(Post-impressionism)ということになる。フィラデルフィアにある有名なバーンズ・コレクション(Barnes Collection)の絵画選定にも関わっていたらしい。グラッケンスの画風はその明るい色彩で知られ、ルノワールと比肩されていたという。今回ミルウォーキーで見た絵は、"Breezy Day Tugboats, New York Harbor (1910)"と題されたもので、冬の晴れた日のニューヨーク湾の情景を描いている。画風的にはフォーヴィズム的な荒々しい筆致ながら、色彩の明るさと、船の吐き出した煙や波濤がリズミカルに白い絵の具で描かれている。アメリアのアートはこの絵に見られるように、素朴な楽しさに満ちていることがある。
 

 

 もう一人は17世紀オランダの親子三代にわたって画業を営んでいたWillem van de Verdeによる"Ships in a Storm (17 century)"だ。実際にこの親子三代の誰が描いたかは特定されていないが、大変モダンな劇的な筆致で描かれている。それはすでに19世紀に開花した絵画の新潮流を先取りしているように思える。しかしこうした試みは単発・散発であり、大きな潮流を作る至らなかった。こうした作品を見るにつけ、新機軸の試みは各地で起こっているが、大きな潮流になっていないことがほとんどだということがわかる。美術の大きな潮流ができるためには方向を共にする複数の芸術家の存在はもとより、加えてそれを支持する批評家や画商といった周囲の人々の存在がいかに重要な役割を果たすかということが理解できるように思う。